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日々の重さ [汗牛充棟]

「エイジ」の次は,これになるかもしれない。

本当の日常はこんなふうに本来重いものなのだろう。
それを正視したくなくて,気づきたくなくて,
みんな,明るく,爽やかに,軽~く生きようとしているのだろうか。


小説は虚構だが,その中に真実はいつもある。先日から少しずつ読み始めています。

十字架

十字架

  • 作者: 重松 清
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2009/12/15
  • メディア: 単行本


少しずつ,なのは内容があまりにも重いから。

週明けにも関わらず,今日の体調は早朝4:00くらいから悪かった。
みぞおち辺りの動悸で目が覚める。熱も測ると7.4度。
大事な仕事を明日に控え,やむなく欠勤を決めた。
どうにも身体が重くてダルい。倦怠感が夕方まで続いた。
昨日まであんなに元気でも,次の朝になってみなければ分からないのが今の私の現状だ。

そんな日でも,この本に書かれてある現実の重さは必要だ。
重松さんの言葉の力,筆の力は子どもを主人公にしていても容赦ない。
大人をも畏れさせる力を持っている。
子どもと一緒に「生きる」ことの意味を問える作品を授業でやりたい。
教科書に書いてあるものは大抵,大人が答えをあらかた理解できてて,その答え以外を受け容れてもらえないものだからだ。

読んだ後に,気持ちが重たくなるような小説だ。
しかし,今の私たち現代人にはむしろ必要なものではなかろうか。
たとえば「エイジ」の登場人物の一人,いつも冷静沈着なタモツ君。
「自分が困った時,他人の善意を期待するなら,他人の悪意(通り魔に遭う)も覚悟しなくちゃ」
理屈は合っているけれど,どこか受け止め兼ねる・・・でも自分の答えが見つからない。

そんな手法が重松作品には多い。
この「十字架」はそんなロジックのてんこ盛りである。

いつも苛められていた同級生が自宅で自殺した。
遺書には苛めていたクラスメイトの名前とともに,自分の名前が「親友」として書かれてあったとしたら。

自分が彼の「親友」だという認識がないのに,「ありがとう」と書き残される少年の物語。
「親友」といわれるがゆえに自殺した同級生の親やマスコミから責められる主人公は「エイジ」と同じ中学2年生,14才である。

第二章【見殺し】では,女性記者(本多さん)とのやりとりの中でとても印象的な言葉が出てくる。

自殺した少年の告別式で。
「お父さんが最後にあなたたちになにか言うだろう、と思ってたの」
「動揺した顔でも無表情でも、とにかく、そこからすべてが始まるわけだからね」
「つらくて、長い旅よ」
「しかも、どこにたどり着けばいいのかわからないんだから」


本多さんはメモに一言だけ書いた。
十字架-。
ひとを責める言葉には2種類ある、と教えてくれたのは本多さんだった。

ナイフの言葉。
十字架の言葉。

主人公は大学進学が決まった18才の時にその違いを本多さんに教えられる。

「ナイフの言葉は、胸に突き刺さるよ。」
「ナイフで刺されたときにいちばん痛いのは、刺された瞬間なの」

十字架の言葉は違う。

「十字架の言葉は、背負わなくちゃいけないの。それを背負ったまま、ずぅっと歩くの。どんどん重くなってきても、降ろすことなんてできないし、足を止めることもできない。歩いているかぎり、ってことは、生きてるかぎり、その言葉を背負いつづけなきゃいけないわけ」

主人公がなぜ自殺した同級生に「親友」と呼ばれて「ありがとう」と言われたのか,まだ分からない。
この時点で私は今はまだ,この主人公と同じ戸惑いを感じているところだ。この少年は,この事件から十字架を抱えて大人になっていく20年の物語だ。

日常の重さを思い知らされる。

同級生が自殺した後も,誰もがいつものいじめの光景を思うとそのうちいつか・・・と誰もが思っている。でも,誰もいじめをとめない日常。彼が死んでしまってもかまわないとは、誰も思っていなかった。でも、なにがあっても彼を死なせてはいけない、とも思っていない日常。

14才の日常は,大人の日常と実はさして変わらないのではないか。
だから,読んでいて重たい憂鬱な気持ちに陥ってしまうのではないかと思った。

でも,人間はいずれ大小問わずそれぞれの“十字架”を背負っていくのだろう。
それが「生きる」ってことなのかも。その答えを生徒たちと探せそうな気がする作品だ。


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bonn1979

とても重くて大切なことが書かれてある記事でした。
そういうことを考えるのを先延ばしにしてきた68年間という思いです。
小説は苦手ですが、この本ばかりは読んでみたいと思いました。
人生の日々の考えが煮詰められた貴ブログの記事に出会い
これからの残された日々を少し考えたのでした。
(あいかわらず先延ばしだな)
話は変わりますが鹿児島の今日は良い天気でした。

by bonn1979 (2010-01-26 22:48) 

松matsu

【bonnさん】
ありがとうございます!(v^-^v)♪
なんだか暗い話だらけなんですけど,読むことを止めてはいけない
そんな作品です。今も採点の傍ら,少しずつ読み進めています。
東京も年明けからずっとお天気がいいですよー。
by 松matsu (2010-01-31 22:29) 

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